ウィザードリィ 外伝Ⅱ 古代皇帝の呪い ある魔法使いが記した冒険の記録
Wizadry 外伝Ⅱ
この物語はアラビアに伝わる物語にとてもよく似ている。
あるパーティーの地図作り兼魔法使いとして、私が探索し見聞きしたものと共にここに記しておこう。
/なぜ姫君は呪われたのか?
西方と東方が交わる地、隊商路沿いにあるオアシスの都市。
この土地では古くから交易が栄え、西と東の商品が行き合っている。
はるか昔、ここに古代帝国が存在した。
どれぐらい昔かもわからないぐらい、広大なオアシスの広大な城砦がそっくりそのまま砂に埋もれて、人々の記憶からも埋もれるぐらいの昔。
ここに1人の狂王がいた。名をハルギスという。
熟練さえも超えた、極限の魔法使いにしてオアシスの王。
その妖術は人外の域に達し、魔物を使役し、巨大な迷宮を建設できるほどの力を持っていた。
なぜ彼がそのような力を手に入れられたのか?それは市中では語られていない。
今では誰の口にも上らない、ただ砂に埋もれた、かつての大建築を墓標に眠るだけだった古の王。
その墓を、退屈まぎれに今生の王が暴いた所からこの話は始まる。
突然、王女の目と耳、そして口が超自然の力で封じられたというのだ。
祟りか?呪いか?古代の妖術王の仕業に違いない!なぜ娘を狙うのか、この卑劣な魔物使いめ!
と、怒りに燃える今生の王は迷宮を探索し、最下層で呪いを発している妖術の王を殺し、愛娘を呪いから救おうと軍杯を掲げようとしていた。。
だがしかし、ここはオアシスの街。交易の要、恵まれた土地。当然、兵隊は魔物よりも略奪者達に備えねばならぬ。
ならばどうすればよいか?ある知恵者が王に進言する。
「高札を立て、天下に広く勇者を募りましょう。それも飛び切り血なまぐさく、飢えた奴らを。ただでさえ魔物は富を収集し、迷宮に溜め込みます、それを奴らに回収させ、さらに迷宮の攻略もさせるのです」
こうして、ボッタクリ商店と冒険者の宿がここオアシスにも誘致され、ギルガメッシュの酒場が用意された。
そして集まってくる、世界中から、血に飢えた冒険者達が。酒場に集い、活気で満ちる。
西方から無双の剣士が、遍歴の騎士が、僧侶が、魔法使いが。東方から侍が。街の闇から盗賊と、暗殺者が。
私もそんな無頼の1人として、ただ修めた妖術のみを頼りにこの酒場へとやってきた。
金と、地位と、そして出来れば、古代の妖術王が修めたという、超絶の魔法の片鱗でも手に入らないかと思いながら。
あのとき、騒ぎ立てる我々とは対照的に王女は落ち着き払っていた。なぜだか冒険者達は考えない。なぜ、彼女は呪われたのか?と。
/冒険者、妖魔怪異を滅ぼし、迷宮を探索する
かくして勇者たちは迷宮へと解き放たれた。
ただの迷路ではない。光の届かない地下にある、巨大な古代の施設のようだ。
しかも、闇の先に扉の向こうに、妖魔達が住み着きうごめいている。
死霊、悪霊、妖怪、魔性、動物、昆虫、盗賊に他の冒険者までもが
襲ってくる。人を食らう。血をすする。金品をまきあげる。恐怖を与えてニタニタと笑う。友好的に手を振ってくる奴もいる。
要所要所にあるはるか古代のしかけはまだ生きており、エレベーターが昇降し、流砂がフロアを流れる。
迷わないように、冒険者達は地図を作る。そうして彼らは気づくのだ。
「どうしてこんなにも幾何学的な構造なんだ?どうしてここには魔物が住み着いている?」
だがそんな問いも一瞬で、彼らは金銀財宝や古の時代の武器を溜め込んだ悪霊共を狩りたて
そいつらから宝を奪う事に再び専念し出すのだ。
あわれな冒険者を妖魔たちが食らい、血と恐怖に化け物が歓喜し、それを糧に暗がりに魔物が増殖する。
増殖した魔物はその習性からひかりものを溜め込む。そうして迷宮は宝を収集し、溜め込んでゆく。
そして、宝は冒険者たちを呼び寄せる。
深い階層の妖魔ほど強く、集められた宝も多く、そこへ行って帰ってこれる冒険者はより強く・・・
この迷宮は何を呼ぼうとしているのか?
地図を書き込んでいた私はその考えをすぐに中断し、魔物に備えて目を凝らした。
/彫像とシステム
奇妙に思えるのだが、こういった古代遺跡にはなぜか何処もある種の訓練設備を備えている。
この部屋へ入った私たちは、まず部屋の中央に建てられた古びた祭壇に目を奪われ、
次に祭壇上に立つ、しろい布を深々とかぶせられた彫像に注意を引かれた。
何処からか青白い光が降り注ぎ、満月の夜のように彫像を照らしている。
ふと、それが動き出した。
/探索者の影
いったい何組の冒険者達がこの迷宮に挑んでいるのか。
街の寺院には毎日死体や石、灰と変わった冒険者たちの成れの果てが運び込まれている。
フロアは様々ながらくたや血で汚れ、中には魔物に襲われて帰れぬ身となった亡骸も珍しくはない。
それでも一向に自分たちが最後の1パーティーになる気配はないし、同じく迷宮を歩き回っているものたち、
仕掛けに苛立ち、いたずら書きを残すものたち、そして危険な魔物どもを狩るよりもおいしい武器や防具や金をたっぷりと溜め込んだ
同僚である冒険者を狩る集団にだっていくらでも遭遇する。
ただ、一見無法地帯と見えるこの迷宮内にも助け合いの精神らしきものは存在しており、地下1Fの攻略掲示板では活発に議論が交わされている。
欲望で釣った後は、協力しないと進めないようにしている。この迷宮の意図が、さらに見えなくなった。
迷宮の奥底にいるものが、本当に王女に呪いをかけた古代の妖術王だとするならば
この迷宮は奴の城砦であり、魔物は城を守る兵士であるのだろうか?
おかしい、と私は思う。それにしては仕組まれすぎている。
そもそも最初は墓だったはずだ。墓を荒らした侵入者への罰、オアシスの王はそう言った。
だが、それではつじつまがあわない。
/地図製作者
方位、高度、そして空間を感じ取るのは魔法の初歩だ。自分が何処に居るのかがわからなければ、自分が何をしたいのかもわからなくなる。
そういった訳で、私たち魔法使いは迷宮の地図製作をそのパーティーにおいて請け負う事が多い。
ただ精神力も無限ではないので、そうそうに感知の魔法は使えず、筆記という形で地図を作る事になるのだが・・・。
そうして作られた地図は、探索においては最重要の宝になる。魔物は手ごわく、道は長く険しい。正確で上等の地図がなければ
やっとの思いで手に入れた宝も、地上へ持ち帰れずにおだぶつ、そういった羽目になってしまうのだ。
当然、情報を綿密に書き込まれた真っ黒の地図は宝と同じ価値を持ち、他の冒険者たちに狙われ、略奪される危険性は増してくる。
だから必要な道以外は埋めない、そういった地図を作る事も地図製作者のテクニックなのだ。
でも、だけど、今日も私はパーティーを指示し、危険を犯して必要のないルートの隅の隅までもの探索を続ける。
地図の全ての空白を埋める、それもまた地図製作者の断念しがたい喜びなのだ。
/門番
決定的な証拠を手に入れた。この迷宮の魔物共は、確実に誰かによって使役されている。
この迷宮の一部として、システムに組み込まれている。
/呪いと泉
だんだんと、迷宮に自然の部分が多くなってきた。もちろん、要所要所で回転床やエレベーターなどの
機械的、人為的な部分はあるが、不思議な色の泉が各層にも見られるようになった。
温泉のような、透き通った色合いの美しい泉である。水浴びのついでに着替えようとしていた仲間の1人が
うっかりと呪われた装備品を身につけてしまい、泉に入れなくなっていた。
/血の匂いのする王
フロアの空気が、はっきりと変わった。
濃い魔力の匂い・・・血の匂い・・・そこに万魔殿のような、もしくは神殿のような匂いが混ざっている。
玄室、ここは墓だ。この階層全てが巨大なお墓になっている。
気配からして、ここに古の妖術王が居る事は間違いないのだが、なぜ墓にいるのだろうか?
ここは彼の城砦ではなかったのか?
私たちが最後の玄室に近づいたとき、部屋の中央に置かれていた石棺が重い音をたててずれ、
蓋が開き
そこから這い出してきた干からびた男・・・古代より生き続ける呪われた皇帝は、しわがれた声ではっきりとこう言った。
「おろかもの!おろかものめが!きさまらは、なにも わかっておらん!」
/封印解除
魔王を倒した証をもって、私のパーティーはオアシスの王都へと凱旋する。
全ての原因が破壊され、因果は説き伏せられ、当然の如く目、耳、そして口が開かれた王女が私たちを出迎えてくれた。
しかし、これは、なんだ?王都は、以前よりも荒れているではないか!?
王女が救われた礼をしてくる。喜びのあまりまるで蛇のようにニタニタと笑いながら、自分の目や耳が開かれた事を感謝している。
王は尊大な態度で、私たちに国内での階位と、報奨金を支払って、城に帰ってしまった。
生臭い匂いのする謁見の間から私たちが退出すると、何処からかすすり泣くような声が聞こえたような気がした。
なんということをしてくれたのですか、と。
/蓋を開く
妖術王が死んでからも、迷宮には妖魔が沸き続け、妖魔は宝を集め続けていた。
当然、その宝がある限り、冒険者は何処にも行くことはない。
結局、この巨大な地下の施設は全てのものを捕らえ続けているのだ。
クリアしたものの義務というか、階位への責任というのだろうか?それとも私のもつ
迷宮の全てを確かめなければ気がすまない性分からであろうか?
私たちは、いつもの様に地下に潜って、地図の残りを埋めていた。
やがて妖術王の玄室へと辿りついた。
測定を開始する。
ふと、仲間のシーフが隠し扉に気が付いた。
古代皇帝の遺産が納められている場所であろうか?王からは満足に金子を受け取れていない私たちは
役得とばかりにまだ見ぬ財宝を目指して、さらに下のフロアへの階段を発見する。
そこは、東洋風の祭壇だった。明らかに何かを封印している。
いけない、これは、動かさないほうがいい。
これは蓋だ。それもただの蓋じゃない。
そうだ、これが、これこそが迷宮の目的なのだと、私は気づいた。
きょうふが、 こみあげてくる
/魔の世界
蛇に恋をした王子の物語を、小さな頃に読んだことがある。
王子は蛇の化身と恋仲になり、彼女から不思議な力を与えられ、それを使って王子は王になった。
蛇の化身は王妃になった。王国は栄え、やがて西と東の二つの世界をつなぐ、世界で最も大きな都となった。
だがある日、王と蛇は仲違いをした。王が新たに人間の娘に恋をしたのだという。
蛇の化身は国を去り、やがて急速に王国は寂れていった。
人々は消え、交易は寂れ、オアシスは枯れた。王国は砂に埋まった。
あのおとぎ話が真実だったとしたら?
それも、蛇の娘は去ったのではなく、封じられていたのだとしたら?
それを封じたのが王であったのだとしたら?
国を滅ぼしたのが、他ならぬその蛇であったのだとしたら?
王都のあの臭いが、今ではなんであるのかがわかる。
/蛇の手足
とにもかくにも、私はこの場所を知ってしまった。黄泉を。
そして蛇の物語を思い出してしまった。王の結界を破ったのが私たちだというのなら、やらなくてはいけないのかもしれない。
迷宮が招きよせて、選んだという理由がひとつ。まだ見ぬ、神々の財宝を手に入れたいという思いがひとつ。
そして、空白だらけの地図を手に。
/脱皮
「あなたたち よくやってくれましたね。わたしをふうじていたあの いまいましい封印も」
「あのいまいましい結界も しわくちゃの番人ごと よくぞ破ってくれましたね」
「わたしはあなたたちに お礼がしたいのです どんな褒美がほしいのかしら?」
「りょうども たからも いくらでも差し上げますよ どうせ ちじょうはすべてわたしのものになるのです」
「かみがみの武器がお入用かしら?それとも古代のまほうがおめあてですか?」
「それとも、わたしの分身と結婚しちゃいたいのかしら?」
「わたしを封じるようなものはだめだけど それ以外ならなんでもさしあげますよ」
「なんでもこわせる魔法を!なんでも殺せる武器を!」
「そうね、せっかくくぐつも手に入った事だし わたくし本体はここに居を構えて あなたたちには」
「よわっちい魔王たちのかわりに わたしのごえいとして そっきんをやってもらっちゃおうかしら」
「さあ、なにをえらんでもいいのよ?なんたって今日は わたしの新しいたんじょうびなんですからね!」
/大団円と閉幕
女王の間ですべての物語を語り終えると、彼女はその本来の声で「おめでとう」と言った。
そしてまた、あなたの冒険譚を聞かせてくださいね。
その時だけ、わたしの心は癒されるのです、と。